280. 望ましい困難
生徒が学習をしている時、難しそうに顔をしかめる瞬間、悪い状況からなかなか抜け出すことができずに苦しんでいるように見える場面に出合うことがあります。それをいち早く取り除いてあげたくなるのは先生や保護者の気持ちとして当然だと思います。放っておけない「優しい大人」は、さらに詳しい解説をしたり、手取り足取りアドバイスをしたりすることでしょう。それが必要な場面は確かに多くあります。しかし一方で、あえてその優しさを横に置き、見守ることも必要なことです。
「望ましい困難(desirable difficulties)」という言葉があります。これは、学習において適度な困難を取り入れることで、長期的にはより深い理解と記憶の定着を促すという、心理学者ビョークらによって提唱された概念です。
「望ましい困難」と向き合う学習者の体感の例として「前よりうまくできない」「なんだか遠回りしている」と感じやすいことが挙げられます。ビョークらは、『学習において「その場の出来(パフォーマンス)」と、後で使える「定着(学習)」は一致しないことがあり、やりやすさが必ずしも良い学びを保証しない』と述べています。
では、どんな困難が「望ましい」のでしょうか。代表例として挙げられるのが、次の取り組みです。
・学習の条件に変化を入れること
・分野や単元を混ぜること(インターリービング)
・学習の間隔を空けること(分散=スペーシング)
・「読む・聞く」より「思い出す」機会を増やすこと(テスト=想起)
例えば、同じ単元の類題をまとめて解くとその時間はスイスイ進んで「できた気」になりやすいのですが、少し日を空けて解いたり、その単元が含まれる総合問題を解くと手が止まりがちです。これらは私たち大人も経験したことがあるのではないでしょうか。
但し、困難であれば何でもよいわけではありません。背景知識や基礎技能が足りない状態で負荷だけを上げると、その困難は「望ましい」どころか、学びを止める「望ましくない困難」になります。ビョークらも『学習者がうまく応答できる土台がないと、望ましい困難は望ましくなくなる』と注意を促しています。子どもの現在地に合わせて設計する必要があります。
今日解いた問題を明後日もう一度解くことや、国語の要約であれば、同じ文章を読む際に要点を先に口で言ってから本文を読むことは「望ましい困難」となるでしょう。
学習の場面では、順調に進んでいると感じる時ほど意外と「定着」していないことがあります。逆に、少し引っかかる時ほど後にその記憶が想起されることがあります。「望ましい困難」を味方にして、子どもたちの学びを深めましょう。
#教育コラム280

