272. 「放任」が生み出す学びの環境
脳は「予測を作り出す臓器」です。脳は、自身の経験からこの世界がどうなっているのかを予測しています。その予測と実測との誤差が生じれば、日々アップデートを繰り返して学習しています。
ある程度の経験を積んだ大人は「こうきたら、こうする」というように定型的な行動パターンが決まっています。近所のコンビニに行くのに、特段変わったことがなければそこに新たな学習や記憶が生じる余地はなく、あたかも脳が自動運転をしているように行動します。これは、経験により実測との誤差が小さいことを意味しています。
しかし、子どもの脳は、あらゆるものが新しく、記憶・学習する余地が多分にあります。そのため、予測と実測の誤差が大きく生じることがあり、脳のアップデートによる学習が活発に行われています。
これらのことから、脳を正しく働かせるためには経験が重要なことは言うまでもありませんが、特に「能動的に」動くことが重要だと言われています。その理由は、「能動的」には、たくさんの試行錯誤や失敗の経験が含まれているからです。反対の「受動的」の場合、試行錯誤や失敗の経験の蓄積にはつながりにくいでしょう。
「失敗から学ぶことは多いのだから、たくさん挑戦して、たくさん失敗しよう!」という言葉をよく耳にしますが、脳機能の面からみても正しい発達を促す名言です。子どもや大人が能動的な経験を多く積むには、大人や上司が細かなことに多くの口出しをすることなく、ある程度「放任」することが、学習者の「能動的な学びの環境」を作るのではないかと考えます。
<引用・参照>「頭がいい」とはどういうことか(毛内拡著 ちくま新書)
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