256. 読むたびに混乱する子どもの頭の中で起きていること

「読んでいるのに内容がつかめないんです」
「音読はできているけど、何を読んだのか聞くと“わからない”と言うんです」
これは、教育現場や保護者からよく聞く悩みです。こうした子どもたちの頭の中では、いったい何が起きているのでしょうか?

読解力といえば、語彙力や文法力の不足がまず疑われます。もちろんそれらも大切ですが、それだけでは説明しきれない“読みの混乱”があります。そのカギを握っているのが「ワーキングメモリ」です。

たとえば「太郎は動物園に行って、ゾウとキリンを見たけれど、帰りに雨が降ってきたので傘をさした」という一文を読むとき、
①主語や出来事を覚えながら、
②次に出てくる新しい情報を理解し、
③全体をつなげて「何があったのか」を把握するというように、情報を“出し入れ”しながら読んでいます。

この力が弱く、すぐに容量がいっぱいになってしまうと、次のような困難さが現れます。
・登場人物が多いと混乱する
・接続詞(しかし、つまりなど)が理解できない
・一文が長くなると、前の部分を忘れてしまう

子ども自身も「何がわからないのかわからない」状態になり、読書や勉強への苦手意識につながることもあります。このような子どもたちには、以下のような配慮が有効です。
・読みながらメモをとる(登場人物や場所を視覚化)
・短い文章に区切って読む
・音読+要約の習慣をつける
・読み終わったあとに、口頭で内容を整理する

「読めているのに理解できていない」子は、決して怠けているのではなく、頭の中で処理しきれない情報量に困っているのです。読解に困っている子どもたちに対して、私たちはつい「もっとちゃんと読みなさい」と言ってしまいがちです。でも本当に必要なのは、「この子は頭の中で何に苦労しているのだろう?」と問い直す視点かもしれません。

読解力を育てるとは、読み方の“技術”だけでなく、脳の負荷を理解し、整えてあげることでもあります。


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